BCP導入事例
他社との連携BCPを平常時のビジネスに生かす

西光エンジニアリング株式会社

1.企業概要

西光エンジニアリング株式会社(以下当社)は、、近い将来南海トラフ巨大地震が懸念されている静岡県藤枝市に本社を置き、特許技術によるマイクロ波減圧乾燥機などの企画・設計・製造を行うエンジニアリング会社である。
経営革新、新連携、農商工連携、地域資源活用事業などの公的支援制度により、県外企業と技術提携を行い事業拡大を図っている。
主な顧客は、お茶など食品関係の乾燥や焙煎を必要とする飲料メーカーで、県内のみならず全国に拡大している。

2.BCP策定に取り組むまで

当社は、独自の技術による製品を企画・設計・製造・販売をしているため、災害時に自力で事業継続できない場合、顧客に多大な迷惑を掛け、顧客の事業継続にも影響を及ぼす。東日本大震災の被害を目の当たりにしたとき、この想いを強くした。

(1)初期のリスク対応
BCPに取り組む以前から、一番重要な設計・技術情報は何があっても守るため、平成14年より沖縄でバックアップデータを保存していた。
これは子会社の沖友が「乾燥モズク」の製造・販売を沖縄で始めており、バックアップデータの記録媒体を定期的に沖縄に送付し対応した。またこれに合わせ沖縄で本社業務の一部代替が行えるようにも考慮し、沖縄の地元企業に据付工事、一部部品の製作、導入設備のメンテナンスなどを依頼するようにした。

(2)株式会社エフ・イーとの出会い
静岡空港が開港し、静岡県が空港就航先との経済交流を目的に北海道で開催した「ものづくりテクノフェア」の静岡県コーナーに当社も出展の機会を得た。この時、出会った企業が当社のBCPを確かなものにする株式会社エフ・イーである。このエフ・イー社は根菜類の洗浄を行う機械を製造・販売している会社で、当社製品の販売代理店をという申し入れであった。

(3)BCP策定の決断
大手顧客からは、当社が静岡県に存在することで、南海トラフ巨大地震の被害想定が公表されるたびに、「この巨大地震で西光さんが被災した時、導入機械は誰がアフターサービスをしてくれるのか?」や「突発時、既に発注済みの装置は完成するのか?」と問いかけられる様になってきた。
つまり、当社が静岡県にあることが、顧客にとってのリスクであり、しっかりとしたBCPを策定しているかを確認されていることを感じた。
そこで顧客の信頼に応えるため、BCPの策定を平成25年6月に決断した。
BCPの策定にあたって、その内容、進め方が分からなかったため、商工会の専門家派遣制度を活用し、取り組むこととした。

3.活動の実際

(1)BCPの基本方針
 BCP策定に当たり以下の基本方針を定めた。
社員と家族、訪問者の身の安全を守る
早期の業務再開を図り会社の継続を図る
事業機会の逸失と顧客離れを回避する
地域との共助
 また、BCPの検討に際し、本社が一部損壊、中破、大破という被害レベルを想定し、この大破の場合の事業継続対策が重要と考えた。

(2)一番厳しい状況に対応可能なBCPに
 なぜならば、①主要顧客の当社機器は全国に納入され、販売パートナーも全国にあり、拡大を続けている。また、納入機は多くの特許を使用し、一部はブラックボックス化しており、当社でないと保守ができない。
②小規模企業である当社には、BCP対策のみに人や資金の投入は厳しい。そこで平常時の事業活動にリスク回避の要素を含める必要があった。
③仕入先や外注先の代替を意識した垂直統合型BCPでは、当社の事業継続には不十分である。
以上から、平素から連携関係のある中小企業がいざという時にも互いに助け会える水平型BCPでと考えた。

(3)エフイー社とのBCP連携
 そこで前述のエフ・イー社にBCP連携を申し入れた。そして、平時においてお互いの製品の販売や両社の強みを活かした製品開発を目的とした「業務提携契約」と、静岡は地震や津波、北海道は噴火や火災といった災害発生時に相互に支援しあう「災害時における相互応援協定」を締結した。


(4)静岡県BCP特別保証の内示取得
 静岡県信用保証協会からBCP特別保証制度(BCPが①指定された書式で、②支援機関認定の専門家による指導を受けて作成、という条件を満たした場合、激甚災害時に復興・運転資金として、通常融資とは別枠で最大2億8千万までの信用保証内示が受けられる)の内示書をいただいた。
 この内示書は予想以上の効果を発揮した。①顧客や取引先にBCP策定済企業であることをこの内示書で示せた。つまり、第三者認証のためISO取得などのコストと時間、労力を必要とせず、この内示書がBCP策定のエビデンスとして活用できた。
②企業間連携の交渉の際、相手企業に資金面での安心感を与え、交渉がスムースに進んだ。つまり支援企業にしてみると、災害時の支援協定により応援しても支払面での不安は拭えない。しかしこの内示書が資金面の裏付けを保証する形となった。

4.BCP策定の効果

当社の最大のリスクであった本社が大破しても顧客へのサービスを途絶させない体制が構築でき、しかも平常時の事業拡大にも大きく貢献できるようになった。加えてBCP特別保証の内示書が、BCP策定済企業の証となったことで、当社への信頼度が大きく向上した。

5.今後に向けた課題や活動

実際災害が発生した場合どのように業務を再開させるのかについて、担当者の役割・手順、必要な情報の内容、情報共有の仕組みなどを具体化すること。そして、社員各自がいつ、何を、どのように行うのかを訓練し、BCPの検証と見直しを続け、実践力を高める必要がある。

 作成 宮角 良介